出展:青空文庫より
やまみちを登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。
どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。
ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、
寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。
あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
夏目漱石39歳の時の作品「草枕」の冒頭部分です。 作品は1906年。
その10年後に、49歳で没しています。
100年を経て、今はコロナウイルスが蔓延する大変な時代になりました。
今の世の中、政治をを慮ると「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
読んで字のごとしと言う世の中になっています。 世の中はどんなに不条理で済みにくく
ても、ほかの世に行くことはできないと言っています。
あれば人でなしの国だと。
政治家の皆さんは国民に選ばれたのだから、どうか逃げ回らないで民意を汲み取って頂き
たい。 国民はそれこそ、逃げる場がありません。
何を最も優先させるのか、それを誤ると 情に棹させば流される ことに成り兼ねません。
束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ それが政治家の皆さんの使命です。
遠い昔、八甲田山雪の行軍は誤った判断により未曾有の199人の犠牲者を出しました。
それほどに、生命の関わる判断は間違いが許されない。
人でなしの国へ行く ことなど誰も望みません。
勇気が、命を救います。